はじめに
テクノロジーが発達し、研究開発のための費用もより多く必要になるなか、日本においては限られた研究費でなんとか成果を出していかなければなりません。
少ない研究費でやりくりするために研究室・部署内にあるものだけで済ませると、どうしても範囲の狭い研究になってしまいやすいです。
だからといって、研究費をとってきて設備購入では大きなお金も時間も必要だし、柔軟性も低い。ではどうすればいいか?
そんな時には外部の研究設備・ラボを活用しましょう。少ない研究費でオリジナリティの高い多様な研究をするには、外部の研究設備の活用が非常に便利です。
購入以外に、繋がりの深い研究室や企業の実験機器をコネで使わせてもらう、共同研究をする、ということは普段から行われていると思いますが、実はもっと多様な選択肢があります。
ここではそれらを紹介していきたいと思います。
公設試
公設試は、公設試験研究機関の略称で、国または地方公共団体が設置した試験所、研究所、指導所その他の機関のことをいいます。
全国の都道府県に設置されており、東京都の都産技研に代表される一部の公設試では、ものづくりのための加工機器や分析機器等を利用したり、技術支援を受けることができます。
他の手段と比較して、以下のような特徴があります。
1. 中小企業の味方
設備投資がしにくい中小企業が利用しやすいように、多くの公設試では中小企業の利用料金が半額程度に抑えられています。
2. 利用のハードルが低い
必要な手続きが比較的少なく、金額も数百〜数千円/時間程度のものがほとんどなので、気軽に利用することが可能です。
3. 汎用的な設備中心
Spring8や巨大な透過電子顕微鏡のような数億〜数百億円するような貴重な機器・設備ではなく、ある程度汎用的な数百万〜数千万円程度の金額の機器・設備が中心です。
3. ものづくり関連中心
バイオ系の設備があるところもありますが、主にものづくりのための機器・設備が設置されています。材料加工、電気試験、環境試験、化学分析といったものに必要な機器・設備が充実しています。
4. 各都道府県にある
どこかに一極集中しているわけではなく全国にあるため、お近くの公設試を探してみましょう。
大学設備共用
国の取り組みもあり、多くの大学の設備も利用することができます。
以下のような特徴があります。
1.大学内部に共用、一部外部にも
外部で利用できるものもありますが、外部からの利用の方が手続きや金額面でハードルが高いこともあり、多くの場合は大学内部で主に利用されています。
2.国の補助金もあり圧倒的に安い場合が多い
文科省でも大学の設備共用のための取り組みが複数あり、その取り組みを活用して外部への共用も進んできました。代表的なものでは、ナノテクノロジープラットフォームや先端設備共用事業などがあります。
国からの補助金もあって利用料のみで採算を取るわけではないため、設備性能に対し非常に安く利用することができます。
3.制限多いし面倒
ただし、大学は様々な規則に縛られており、国からの資金も入っているため、審査や報告書が必須であったり、利用前後の手間は多めです。
また、一部の機関では利用に際して共同研究契約を結ぶ必要がある場合があります。
4.一部超貴重な設備も
日本に数台しかないような数億円〜の極めて貴重な機器・設備が利用できる場合もあります。
5.ややムラがある
本業があくまでも研究であるため、対応に慣れていない場合もあり、機関や人による対応のバラツキはあります。
メイカーズスペース
fab labやDMM.makeに代表されるような個人の「メイカー」のためのスペースです。
以下のような特徴があります。
1.民間、特に個人のためのものづくりスペース
メイカーズスペースは、企業活動のためのものではなく、個人のものづくりをサポートするものとして発展してきました。そのため、基本的には企業ではなく、個人のためのものです。ベンチャーキャピタルが運営に関わっているようなスペースもあり、インキュベータとしての役割も担っています。
2.ものづくりに特化
メイカーズの名の通り、ものづくり、というよりも工作機器に特化しています。3Dプリンターやレーザーカッター等を主として、木、金属、布、プラスチックといった材料を加工するための設備が中心です。ものづくりをサポートしてくれる方がいる場合もあります。
4.月額利用
公設試や大学は時間単位での利用が多いですが、メイカーズスペースは月額での利用が中心です。コワーキングスペースのように数万円/月で利用できます。利用する材料をその場で買うことができるスペースもあります。
レンタルラボ
実験ができるラボをレンタルする、という選択肢もあります。
代表的なものとしては、中小機構と大学が連携したインキュベーション施設などがあります。
以下のような特徴があります。
1.通常、設備はなく部屋のみ
レンタルラボは、始めから設備が設置されているケースは少なく、通常はレンタルした後に利用する設備を導入する形になります。電源等のインフラ等が整っており、大型の装置も入れることができます。
2.1~2年の利用が必須
時間や月単位での契約ではなく、年単位での契約という場合が多く、1,2年〜の利用となります。また、インキュベーション施設という性質上、まだ軌道に乗っていない企業やプロジェクトを中心に支援していくために、上限期間(5年など)が設けられている場合が多いです。
3.共用の設備が別途ある場合もある
借りる部屋内には設備が無い場合が多いですが、施設内に共用の設備がある場合もあり、基本的な実験はそこでできる場合もあります。
4.多くの場合審査制。審査に数ヶ月かかる場合が多い。
レンタルラボは、大学や支援機関がインキュベーション施設として運用している場合が多いため、研究計画や事業計画、プレゼン等での審査が必要となります。審査と手続きを合わせて、打診から入居までには2,3ヶ月はかかると思っておいた方が良いです。
また、入居後に設備を導入し整えていくため、フルで利用できるまでには更に数ヶ月かかると思っておいた方が良いです。
5.数年のプロジェクトに適している
上記のような特徴を備えているため、短期間使うというよりも、2年〜のプロジェクト、起業での利用に適しています
シェアラボ
まだケースは少なくごく一部で始まった程度の新しい形態ですが、シェアラボという選択肢もあります。拠点としてはBeyond BioLABO TOKYO、プラットフォームとしてはCo-LABO MAKER等があります。
以下のような特徴があります。
1.1日〜の短期間から利用可能で、安い
レンタルラボでは1年〜の長期間での利用が必要ですが、シェアラボの場合は1日〜という選択肢もあります。そのため、金額も数万円〜の利用が可能で、比較的少ない金額での利用も可能です。数ヶ月〜の中長期利用も可能で、例えば、以下のような事例が挙げられます。
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2.既に立ち上がっているラボを活用するため、早い
レンタルラボでは審査・手続きと設備の導入・立ち上げが必要となりますが、シェアラボの場合は設備導入・立上げが不要です。
審査・手続きも数日〜1ヶ月程度で済むため、利用開始までの時間が非常に短く済みます。
3.合った設備・品質のところに
メイカーズスペースのように、シェア専門の施設も一部ありますが、シェア専用では無いラボもあるため、設備のメンテ状況やラインナップは各ラボで大きく異なり、安定はしていません。その代わり、汎用的で無い設備がある場合もあるので合ったところを選ぶことが重要です。
4.シェアする側に回って資金獲得も
また、シェアラボに関しては、使うだけでなく、自らがシェアする側に回ることもできます。
場合によってはコンタミや機器の故障などのリスクもありますが、小さな手間で数万〜数百万円の資金を得ることができるため、マッチするところがあれば、良い収益源になり、連携に繋がるケースもあります。保険を用意している場合もあるため、保険があるところを経由できると多少安心かもしれません。
おわりに
以上、いかがでしたでしょうか。
このように、外部の研究設備を活用する手段は多数あり、ここには記載しなかったコネ利用や共同研究含め、それぞれに違う特徴を有しています。
また、自身で完結させるのではなく、実験含めて完結させる場合には、民間の研究サービスへの委託、大学や公的な研究所への委託などもあります。
なので、このような複数の選択肢の中から現在のシチュエーションに合ったものを探して利用すると良いでしょう。
是非活用してみてください!