はじめに
民間でも、アカデミックでも、研究費の問題は常について回るのではないかと思います。
大学の場合、6割以上の研究者が50万円未満、8割以上の研究者が100万円未満の個人研究費で研究をしています。(https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/037/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2016/08/16/1375827_04.pdf)
この程度の金額では、実験系の場合、試薬や消耗品の購入費をなんとかまかなえるかどうかという程度で、数百万〜数億円するような機器を購入して使用するようなことは困難です。
企業の場合も、売上に直結しない研究に予算を使うのは難しいです。プロジェクト次第では潤沢に資金を使えることもありますが、数十万円以上の金額感になってくると決済を通すのに時間も手間もかかります。
アカデミックも民間も、資金を獲得する手段はありますが、どれも容易ではありません。
資金の「獲得」がうまく行かなくても、資金の「節約」をうまくできれば、必要な実験をこなして良い研究成果を出すこともできます。
そこで、今回は、少ない研究費でもうまく研究を回していくための、研究設備に関する様々な節約手法について紹介していきたいと思います。
研究設備に関する費用節約手段
中古機器を買う
機器は安くても数十万円、高いと数千万円以上するものもあり、多額の予算を確保できていないと購入はできませんが、機器がないとスタート地点にすら立てません。そこでまず挙げられる手段が「中古機器の購入」です。以下のような特徴があります。
メリット
- 安くから買うことができる
- 購入なので、その後も使い続けられる
デメリット
- うまく動かない場合も多々あり、当たり外れが大きい
- 欲しい機器を見つけ出すことは難しい
設置できる場所は既にあり、新たに実験系を立ち上げたいものの予算が限られている時に有効です。安く手に入るのはいいのですが、買っても動かない、修理と立ち上げに時間とお金がかかってしまう、また、メーカー保証等がついていない、ということもあるので、注意が必要です。アカデミックの場合は、予算の種類にもよりますが少し購入しにくいことがあるので、可否を確認してから話を進めましょう。
レンタル機器を利用する
欲しい実験機器の使用用途が決まっていて、長期で使用するわけではない場合は「機器のレンタル」が有効です。以下のような特徴があります。
メリット
- 安く借りることができる
- 中古と違い、メンテもされた状態でレンタルできることが多く、当たり外れは小さい。
デメリット
- 長期で借りると高くつく。
場所はあり、短期間のみ実施したい実験がある場合に有効です。
アカデミックの場合は、推奨され始めてはいるものの、中古機器購入と同様に予算によっては少し利用しにくいかもしれません。予算を確認しましょう。
機器を訪問利用する
レンタルや機器購入のように機器が移動するのではなく、既に立ち上がっている「実験機器を訪問利用する」という選択肢もあります。
機器を持っている施設に訪問して利用する方法で、産業技術センターや一部の大学でも利用することができ、安く使用することができます。以下のような特徴があります。
メリット
- 安く使用できる。
- 短時間から使用することができる。
- 立ち上げの手間がいらない。
デメリット
- 直接使いに行くことになるので場所の制約がある。
- 実施内容のわりに手続きの手間が大きい。
場所も設備もないが、短期間のみ実施したい実験がある場合に有効です。
立ち上げの手間もなく短時間から使える場合が多いですが、直接使いに行くことになるので場所の制約があります。また、外部からの利用の場合は特に手続きの手間が大きいので、外部からだと、いつでも気軽に使える、というわけではありません。
機関内にある場合、もしくは、高額の設備を単発で利用したい場合には非常に向いている方法です。
レンタルラボを利用する
数は少ないですが、あれば「レンタルラボを利用する」というのも有効な方法の一つです。
以下のような特徴があります。
メリット
- インフラ整備の時間と費用を節約できる。
- 共通機器を使える事がある。
デメリット
- 利用に関しての審査がある。
- 利用期間の融通が効きにくい。
基本的な設備が予め設置されている場合はより有効で、数千万円かかる立ち上げ費用と手間を抑えることができます。
審査があったり、年単位での利用が必要な場合、または利用期間上限があることが多いので、大学発ベンチャー等、中小規模の民間企業に向いています。
シェアラボを利用する
こちらも数は少ないですが、あれば「シェアラボを利用する」というのもとても有効です。
以下のような特徴があります。
メリット
- 立ち上げ費用と手間・時間を圧倒的に節約できる。
- 貸し切りではない分、設備に対して金額が安い。
デメリット
- まだ新しい形態なので数があまりない。
- 貸し切りではないため、コンタミや情報漏洩のリスクがある。
設備含めた実験に必要な機器を一通り利用できるため、数千万円かかる立ち上げ費用と手間・時間をを節約できます。レンタル専用ではなく、レンタルで費用をまかなわなければならないわけではないため、より安価に利用できます。場所によるばらつきはありますが、合っているところを選べさえすれば、マニアックな装置もある最も適した研究環境を得ることも可能です。
シェアなので同じ空間に他の人がいるため、それが問題になる場合は避けたるべきでしょう。小規模の民間企業に最も向いているが、大企業でもアジャイルに研究開発を進める際に向いています。
実験委託を利用する
企業では非常に一般的な方法ですが「実験委託を利用する」ことももちろん可能です。
以下のような特徴があります。
メリット
- 質が高い(誤差が小さい、ミスがない可能性が高い、証明として使えることも)
デメリット
- 金額が高め
- 結果が出るまでに時間がかかる事が多い
外部機関へ実験を委託することで、新たな設備の立ち上げや技術習得を抑え、強みに集中することができます。金額は高く感じる場合が多いかもしれませんが、質は高い場合が多く、そのクオリティを出すために必要なことを考えると十分リーズナブルなのではないでしょうか。
民間のR&Dで特におすすめです。
共同研究を行う
アカデミックではほぼこれ、というものですが「共同研究」を行うのも有効です。
以下のような特徴があります。
メリット
- 設備だけでなく、人員や技術等、研究に必要なものを全面的に得られる
- 人脈ができる(コネにつながる)
デメリット
- 手続きの手間が大きい
- 対外発表に制限がある
- 方向性と質と時間軸のコントロールが効きづらい
場合によりますが、日本における現在の共同研究の平均金額は200万円程度で比較的安いです(アメリカでは1000万円程度)。また、技術や労力等、何らかの研究リソースを提供できる場合はとても小さな費用でできるか、むしろ資金や研究リソースを得られる場合もあります。
ただし、権利関係の調整や手続きの手間が大きく、企業は本当に必要な場合以外は避ける傾向があります。
アカデミア間、および特定技術の事業化検討を行う時に有効です。
その他にも
自力で実験系を構築する
時間や知識、発想力は必要ですが、自力で実験系を構築できると、融通がきき、節約にもなるでしょう。
自力で装置を開発したり、ありもので簡易的な実験系を組んで可能な検証を進めたりすれば、安価に研究を進めることができます。
ある程度やることも装置も決まっていてスピード勝負の場合以外は有効です。
コネで機器を利用する
状況は限定されてしまいますが、実施可能であれば非常に有効です。
信頼関係で成り立っている場合が多いです。
組織タイプ毎のおすすめ手法まとめ
以上、各種の方法を挙げましたが、組織によって制約があり、使いやすい手法も異なります。
各手法の特徴をふまえた組織毎のおすすめの方法は以下の通りです。
大学研究室
コネ、共同研究、自力で実験系構築、機器訪問利用
大学の研究室では、共同研究費、競争的資金等、大きな金額の資金は使用用途が限られて手続きも煩雑です。一方でベースとなる実験機器や技術はあるため、それを軸に共同研究や自力での実験系構築をするのが良いでしょう。学会や大学内でのコネを活用すれば少ない手続きで実験もできます。大学内に共用設備がある場合、内部者であれば比較的少ない手続きで利用できるため活用すると良いでしょう。
大企業研究チーム
シェアラボ、実験委託、レンタル機器
大企業の研究チームの場合は、資金の節約ももちろん重要ですが、それよりも如何に速く確実に成果を出すかが重要かと思います。そのためには、質の安定した実験委託やレンタル機器が有効です。
また、新規事業関連の研究開発で、自社では保有していない設備を使う場合、低い金額ですぐに利用できるシェアラボが非常に有効であると思われます。
中小企業
シェアラボ、自力で実験系構築、中古機器、機器訪問利用
中小企業の場合は、少ない資金と時間のなかで如何に新規事業のタネを生み出し、育てるかがポイントになるかと思います。なので、中小企業が比較的使いやすい公設試等での訪問利用、中古機器購入、自力での実験系構築などを活用するのが良いのではないかと思います。
シェアラボをセカンドラボ的に使って開発や新規事業を行うこともできるので、それもおすすめです。
技術系ベンチャー企業
シェアラボ、レンタルラボ、自力で実験系構築、中古、機器訪問利用、レンタル機器
大学発ベンチャーのような技術系のベンチャー企業の場合、特に投資を受けて活動しているような場合は、節約した中で目標期間内に上市まで漕ぎ着けられるかどうかが極めて重要になります。ステージによってかけられるお金も変わっていくので、初期のPoCを進める際はシェアラボや中古機器中心に可能な限り節約しながら進み、ある程度事業の道筋が見えたところで大胆にスピード重視の手を売っていくのが良いのではないかと思います。
終わりに
以上、いかがでしたでしょうか。
今回は、研究設備に関する様々な節約方法についてかかせていただきました。
自身の所属する組織以外の力を借りることは、費用面だけでなく、スピードや質の面でも、多くのメリットがあります。
内側のみで全て実行するよりも、外部のリソースも活用して進められると、知見が交わり、変化のきっかけもできて、新しい成果がでてくるのではないでしょうか。
是非試してみてください。