Co-LABO MAKERは今年7月、株式会社Misoca共同創業者の松本哲氏を技術顧問として迎えた。
今回の松本氏の就任により、Co-LABO MAKERは今後、アジャイルな開発組織づくりや新規事業への展開をさらに推進していく予定だ。
そこで今回は、7月26日に行われた松本氏の就任記念イベントの中から、就任の背景やCo-LABO MAKERの今後の開発体制について語られた部分を詳しくレポートする。
市場に本格的に乗り出すフェーズを迎え、松本氏のサポートが必要に
まずは代表の古谷から、Co-LABO MAKERの事業概要について説明がなされた。
古谷は長らく研究開発に従事する中で、研究のやりづらさを感じることがあり、研究開発環境をより身近なものにするため「研究開発の民主化」をミッションとして掲げ、Co-LABO MAKERの立ち上げに至っている。
現在は8名の社員と業務委託やパートナーを含め、20数名のチームが業務に従事している。
Co-LABO MAKERの事業の中心は、研究開発環境の利用者と提供者をつなぎ、利用まで含めたサポートを行うシェアリングプラットフォーム事業だ。
両者をプラットフォームでつなぐことで、利用者は研究設備を使う機会を得ることができ、提供者は既存のリソースを提要するだけで手間なく資金を獲得することを可能にする。
事業をより細かく分類すると、「ラボシェアリング」「実験委託マッチング」「共同研究マッチング」の3つに分けられる。
今回Co-LABO MAKERが技術顧問に松本哲氏を迎えた理由としては、会社が事業開発をある程度終え、今後テクノロジーを活用して市場を取りに行くフェーズに差しかかっていることが挙げられる。
今後、より高度な技術や組織のマネジメントが求められる中で、古谷が起業前から相談をすることが多かった松本氏にサポートを求めたかたちだ。
松本氏:古谷さんとは過去に何度もお話をしており、遠方ながら頑張りを見て感心していました。最近またお話をさせていただく機会が増え、手伝ってもらえないかとオファーをいただいたので、自分のできる範囲で頑張らせていただきます。僕自身は何でもやれるわけではありませんが、科学や研究というものにとてもリスペクトがあるので、こうした領域で貢献できれば良いなと思っています。
「速く小さく」ができない、研究開発環境の課題
次に、古谷からCo-LABO MAKERにおける事業モデルの特性や現時点でのマーケットの課題が語られた。
同事業は研究開発における利用者と提供者をマッチングすることがコンセプトだが、同事業を使わない場合に利用者側は実験のハードルが非常に高く、「速く小さく」実験することが困難になっている。
例えば、企業の研究開発では、数千万円以上の開発をはじめるには1年近くの意思決定や準備期間が必要で、とても「気軽に着手できる」とは言い難い環境がある。
利用者側がスピーディーに実験を行えるようにするには、企画から実際に開発に着手するまでの期間を早めなければならない。
一方で、提供側の研究室や大学、企業も、資金と資金獲得機会に恵まれていない。
また、一口に「科学」と言っても、分野によって研究者に必要なスキルセットが全く違うため、研究開発を市場という枠組みで細分化してしまうと、ミクロな市場が大量に存在することになり、プラットフォーム化はそう簡単ではない。
Co-LABO MAKERに比較的類似したビザスクやキャディなどのサービスでも、コンサルティングやマッチングを行う際に苦労しており、マッチングを仲介してサポートする人がいたり、さらにテクノロジーでレバレッジをかけて事業を進めているのが現状だ。
さまざまな領域でプロダクトをつくられてきた松本氏も、次のように市場の特殊性を感じている。
松本氏:確かに「科学」や「研究開発」というワードだと業界がひとまとまりに存在するように思えますが、細かく見るととても零細な事業が無数にあって、まとめて統制をとることはすごく難しい。今までもミスマッチが恒常的に発生していたような領域なので、「マッチングすれば解決するだろう」という考えで事業を進めてもうまくいかないでしょう。とは言え現状の研究開発環境は何とかしなければならず、ここまで進めてきたというのがCo-LABO MAKERさんの現状だと思います。
次に、松本氏から古谷に対して、これまでの取り組みで理想と現実でギャップを感じたことについて質問がなされ、古谷は以下のよう当初の苦労を語っている。
古谷:思った以上に難しいと思ったのは、提供側の大学の意思決定がとても慎重であるところです。提供すること自体は合理的だとわかっていてもなかなか動けない事情が多いのも難しいと感じるところですね。
当事者ではない人達の都合で研究開発のシェアリングが進まないという事例も多く、色々なところに配慮して座組を組まないとそもそも進んでいかないというところもある。
スタートアップというと華やかなイメージがあるが、実務に目を向けると複雑な事業の説明や決定権を持つ相手との折衝など、地道で泥臭い作業が多いという。
今後はプロダクトの改良と新サービスの開発の2軸で展開
Co-LABO MAKERが今後展開していくプロダクトは、大きく分けて2つの方向性に分かれている。
1つ目は先述の研究に関するシェアリングサービスの性能を向上させることだ。これまでは、マッチング後のサポートは複雑な顧客のニーズに応えるため、サポートを人力に頼っている部分が多かった。
しかし、多くのサポートを行う中で、現在では求められるパターンも把握できるようになっており、今後は必要なサポートをプロダクトに落とし込むことを想定している。
2つ目の路線は、シェアリングの延長線上にある新しいプロダクトとして、より多くの研究者に広く活用してもらえるサービスの新規開発を進めることだ。
詳細については現段階で公表できる情報が少ないものの、古谷曰く、「研究者のコラボレーションインフラ」となるサービスだという。
検討段階の新サービスでは、人の力ではなく仕組みの力によって研究開発環境が発展していくことを目指しており、より多くの利用者を想定していることから、toC向けサービスのような開発の仕方を想定している。
シェアリングサービスの開発における使用言語はRuby on Railsだが、新サービスではRubyだけにこだわらず、スピーディーに試行錯誤ができるような動き方を検討している。
新サービスに関する体制について、松本氏は次のように語る。
松本氏:新サービスはtoC寄りであることもあり、既定路線で進めるのではなく、どんどん変わる環境に適応できる組織の構築が必要だと思います。アジャイル開発は、極端に言えばアジャイルマニフェストで挙げられていることを大切にしながら変化に強い体制にすることなので、周囲の変化に素早く対応するよう気を配っていけたら良いと思っています。特に今後は、コンピューターサイエンスの卓越した技術で課題を解決すると言うよりは、利用者の困りごとにフォーカスしてそれを一つひとつ解決していくことになるでしょう。そのため、開発者は単なるコードを書く存在ではなく、さまざまな定性的な課題やニーズを拾える幅広い見識が必要となります。その意味で、これからの人材確保は非常に重要ですね。
古谷:そうですね。その代わり、自分がまさに顧客の課題を解決しているという実感が持てるポジションにもなると思います。
新規サービスの企画段階では、幾度となく顧客へのヒアリングや社内ミーティングが行われており、そのプロセスの一部が対談中に紹介されている。
▲新規サービスの企画段階で作成された資料や図
研究とスタートアップベンチャーは似ている
会社で働くには、代表の人となりを知っておくことも重要だ。松本氏は、代表としての古谷への期待を次のように語る。
松本氏:古谷さんは元々研究者であって、それが事業を進める際にも活きていると思います。スタートアップ界隈の言説は、研究開発のメタファーのようなものが多い。例えば、スタートアップで仮説検証をする際は、実験的な施策を繰り返すことで真に近い状態にたどり着くことが推奨されます。これは研究開発のプロセスそのものですよね。
また、自分の事業を端的に伝えるという行為は、論文で言うところのアブストラクトに該当します。アブストラクトがキャッチーじゃなければ内容が良くても人の目につかない。
こうして見ると、スタートアップがやっていることは研究開発とほぼ一緒です。本来であれば、研究者はスキル的にスタートアップで事業を進めるのが得意なはずなんです。そのため、古谷さんの本来の研究者としての力量を発揮してもらえば良いと考えています。
古谷:確かに、ビジネスのバックグラウンドが全くなかったところから資金調達を進めつつプロダクトをスムーズに発表できたのは、まさに研究者としてのスキルがあったからだと思います。
反対に、既存の売上をベースにしてさらに事業を拡大することが得意な人は、計画的に必要なタスクをこなすスキルは洗練されているかもしれないけれど、ゼロイチ部分はそれとは真逆のやり方をするので、なかなか難しいところもあるのだと思います。
多くの人が恐れてしまう失敗を「実験」として考えられたことが我々の強みでした。
このようにCo-LABO MAKERでは研究者がスキルを発揮して課題解決を進めているが、一方で今後は研究者としてのバックグラウンドがないメンバーもジョインする予定だ。
そこで次に、研究者としてのキャリアがない人材と今後どのように良いチームをつくるかという話題に移った。
松本氏:研究者の方は頭がよく話が細かい。世の中の人はそんな細かい解像度を持って暮らしていないので、共有しなくても良いトピックはあえて粗い解像度でも共有することが大切だと思います。
研究者であってもそうでなくても、その人たちの立ち位置や個性を尊重しながら得意な分野を伸ばしていければ業務も捗るのではないでしょうか。
自由に動けるのはこのフェーズならでは、変化を楽しめるメンバーを募集中
対談の最後では、二人から今後募集するエンジニア職で求める人材について語られた。
古谷:我々が目指しているミッションは研究開発の民主化です。IT業界では、以前はサーバーを自分たちで設置しなければいけない時代から、ノーコードでプロダクトを開発できる時代に変化しています。これから我々が目指すのは、徹底的に研究開発のハードルを下げていき、IT業界で起こったような民主化を研究開発の領域においても実現することです。
我々の目指す方向、ミッションに共感いただけた方がいらっしゃれば、今後一緒にサービスをつくっていきたいと思います。
松本氏:Co-LABO MAKERはまだまだ成長段階の企業であり、色々なことを自分たちで決めていけると思います。ビジネスや組織のために良いと思ったことを実行させてくれる環境がある。そうした意味で、自分たちが主体となってこれから組織をつくりあげていきたいとお考えの方には、Co-LABO MAKERのようなスタートアップが向いていると考えています。
もちろん、やらなければならないことは無数にあり、言われたことだけをやっていれば良い職場ではありません。頑張らなければならないけれど、やりきった成果をダイレクトに感じながら周囲がドラスティックに変わっていくことを楽しめる。今はそんなフェーズだと思っています。