研究者が起業して大変だったこと

研究者が起業して大変だったこと

はじめに

こんにちは。古谷です。
Co-LABO MAKER(コラボメーカー)という研究設備・ラボのシェアリングサービスをしている東北大学発ベンチャーの代表をしています。現在4期目に突入したところです。

Co-LABO MAKERは、一言でいうと「研究版のAirbnb」です。
やりたい実験があるけど研究設備やラボがない研究者を、研究設備はあるけど資金が必要な研究室や企業をつなげ、ラボや実験機器を一定期間使えるサービスを提供しています。
https://co-labo-maker.com/

コラボメーカー説明

同時に、東北大学の社会人ドクターかつ特任准教授でもあります。

前回は「起業してみて、研究者で良かった!と思うこと」を書いてみました。

今回は「起業してみて、研究者からの起業は大変!と思ったこと」を書いてみようと思います。

私は、実際に起業(2017年4月7日)する1年ほど前まで起業家になろうとは考えておらず、大好きな研究をできるだけやり続けたいと考えていたので、諸々不足した状態からのスタートでした。

前回は、研究者でよかった!と思うことを書いていましたが、当然ながらそう甘くはなく、反対に修正に時間がかかり苦労した(苦労している)こともあるため、これから記していきたいと思います。
参考になれば幸いです。

起業してみて、研究者からの起業は大変!と思ったこと

1.ビジネス系の基礎知識と実践と肌感がほとんどない

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まず、当然と言えば当然ですが、ビジネス系の基礎知識と実践と肌感がほとんどないことには苦労しました。

基礎知識はまだ本を読んだり記事をみたり人に聞いたりでどうにかなりますが、実践と肌感がないのは厄介です。

大前提として、起業する際は、元々コンサルだったりマーケだったり営業だったりしても初めてのことだらけなので、誰であろうと新たに学ばなければならないことも、他の人に頼まなければならないことも大量にあります。学び続けることなく大きな成功を得ることはまずないでしょう。

ただ、上に挙げたようなビジネスに関わる職種の場合は、取り組んでいる対象はビジネスであり、直接実施していないにしても間接的にはビジネス全体の雰囲気を知り、感じることができますし、一部の領域ではこれまで培ったものを活用できます(修正は必要)。

一方で、元々研究しかしていなかった場合は、そもそもビジネスにほぼ関わりません取り組んでいる対象は主に研究プロジェクトであり、大学はもちろんのこと、企業の研究の場合でもビジネスへの距離が遠いため、ビジネスの雰囲気を感じることすらあまりありません(会社や対象によってそうでない場合もありますが)。

というのも、研究組織では、目指すゴールからして異なります。売上や利益等のビジネス上の目標を達成するために必要な役割の一部を担うことがほぼないのです(少なくとも感覚的には)。

大学では、論文数×インパクトファクター(研究者のプレゼンス・キャリア上極めて重要)や研究プロジェクトの目標(競争的資金を取ったらかたち上は成功必須、でないと次の資金獲得に響く)や単純な好奇心(本当はこれがメインで他は口実だったりすることもw)が追うものになりがちです。

企業の研究部門でも、事業につながる研究プロジェクトに取り組みますが、その時のゴールは事業のタネになるレベルの品質・性能目標の達成だったりするので、そこには売上や利益といったものはあまり入り込んできません。

目標の感覚・性質も、ビジネスでの感覚・性質(絶対に期限内に目標達成しなければならない)よりチャレンジングで確度の低いものになります。

これまでなかったものを生み出すためには、過去の知見を元に適度な目標を立てて効率的にオペレーションを進めるだけでは月並みな結果しかでません。それでは面白くない。

もうやり尽くされているものの性能を10倍にしろ、みたいな概念レベルでいじらないと達成できないような無茶なものこそ取り組む価値がありますし、面白みを感じ、パフォーマンスも出ます。

目指すゴールだけでなく、予算、お金に対する感覚も大きく異なります。

予算は、行政全般もそうですが、ROI(投資対効果)がどうかというようなシビアな判断が構造上しにくいため、投資ではなく消費をしがちです。

決められた予算を消化する組織運営になっている場合が多く、年度末(or プロジェクトの終わり)が近くと、予算の繰越もできないため、予算をきっちり消化するために駆け込みで消費して調整したりします。

これは本来あるべき姿かというと、全くそうではないと考えていて、今後どうにかして変えていかなければならないと思っています。

競争的資金(もしくは予算)を得ないと研究を進められないけど、その資金を得るためには、すでにこうすれば結果が出て世のため人のため会社のためになるエビデンスがあるかのような書き方をしなくてはならなかったりします。

資金を得るために流行にのった無難な研究内容にするというようなおかしなことになります。
研究が成功したということにしないと次に予算がおりないから、どうとでも解釈できるような目標を立てて、どうあっても成功したことにする、ということすら散見されます(散見されるというか、むしろそれが主流かもしれません)。

資金の使用用途もガチガチに決められていて手間もエビデンスもいります。前提が変わっても方向転換は困難です。要は、競争的資金(もしくは予算)の犬です。

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そんな中で革新的な結果を出していくには闇実験でうまいことエビデンスをつくったり、諸々あまり簡単ではない工夫が必要なので、なんとか変えていきたいですね。

Co-LABO MAKERは、もっと気軽に闇実験できるようにしたい!しがらみのないまとまった研究資金を手間なく得られるようにしたい!という思いで始めており、ある程度は解決できるようになってきました。まだまだ本当にごく一部ですが。

上記のようにゴールや予算の性質が異なるため、適切なプロセス・マネジメントも大きく異なります。

未知の物事に挑むため、このような道筋を辿れば達成できます、という計画は、多くの場合成り立ちません。計画を立てることはできますが、多くの仮定の上に成り立つため、精度は低いです。実験プロセスなどは決めてやるのでコントロールできますが、結果はコントロールできません。結果が確実にコントロールできたら、それは自明ということでそもそも研究する価値がないということです。

ではどのようにすれば結果を出せるか?というと、これは研究するジャンルやその人の特性によるところも大いにあると思いますが、私の場合は大枠のゴールだけ決めて、あとは好奇心ドリブンで動くのが一番常識外れ(良い意味で)の結果を出せていました。

今までなかった新しい概念を説明するのにも、それを生み出すための足場となる論理を構築するのにも高い論理能力が必要な一方で、明確な理由はわからないけど、これをすれば何か面白いことが起こんじゃないか、というワクワク、すなはち好奇心をコンパスとして動いた方が、結果的に革新的な結果もでやすい、という感覚があります。

これは、徹底的に目的ドリブン、ニーズドリブンで逆算して動くことが正義であるビジネスの感覚とは異なります(ビジネスも場合によっては好奇心ドリブンがベターなことがある気もしますが)。

以上のように、ビジネスと研究では全般的に感覚が異なるため、本や記事などで知識を得ることだけでなく、全般的なビジネス感覚を身につけていかなければなりません。感覚に反する動きを多々行わなければならないため、一朝一夕には行きません。

そして、次に述べるように、身につけなければならないことよりも、これまで積み上げたもの、しかも、表面的な積み上げでなく比較的根幹にある部分を横において進めなければ、learningもうまく進まないというところが極めて厄介なのです。

2.起業家、経営者OSを積む際、研究者OSが抵抗してくる

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次に、研究者で苦労したと思うことは「起業家・経営者の知識や感覚を習得する際、研究者OSが抵抗してくる」というところです。むしろ、これが本丸です。これが厄介なのです。

「まだ知らないなら、学べばいいじゃない。まだ答えがないなら、実験すればいいじゃない。」というのが研究者らしい精神だと思います。

しかし、

興味がないことは学ぶ気が起きない。

自分のポリシーに反することはしない。

自分が納得してないことはやりたくない。

というような特性も同時に持ち合わせている場合が多いので、そこはマイナスに働きます。私は比較的境界を越えていくことに抵抗がない方で、だからこそこんなこともやれているのではないかと思いますが、上記の事項も思いっきり当てはまります。

目標に対して逆算で計画通りに進めるよりも、興味のままにつきすすんだ方が結果的に圧倒的に抜きんでた結果を得やすい、という成功体験が多数あり、くりかえし強化されているため、無意識にそれを求めていることに、途中で気付きました。

修士2年間で8本論文書いたのは明らかに異常ですが、自分をとことん追い込んで血反吐をはきながらなんとか目標を達成した!とかでは全くありません。ざっくりした広いテーマを与えられた上で、数の目標は特になく、こうやったらうまくいくのでは?と面白がって夢中になって試しまくっていたら、いつの間にかそこにたどり着いていました。感覚的には遊んでいるという方が近いです。そのような成功体験が障害となっていました

また、自らを研究者であると定義し、研究者とはこうあるべきだ、という矜恃を持って動いていると、自然とそのように動き、無意識レベルでそれが行われるようになってきます。

研究者でいるうちはそれが良い方向に働き、むしろプラスですが、研究者の成功・失敗の積み重ねは、ビジネスマンの成功・失敗の積み重ねと全く別物なので、自然とビジネスマンとしてはやるべきでない動きを無意識にやってしまったりします。ビジネスの世界で求められることでも、研究の世界でNGであれば、拒絶してしまいます。それが厄介なのです

ブレーキかけながらアクセルを踏んでいるようなものなので、学習は進まないし、自身も消耗します。そのことに気づかないと永遠と進まないし、気づいても体に染み付いたものなので修正は苦労します。

研究者としての自分が結構好きなので、自分を経営者ではなく研究者と定義し「研究者が経営してみている」状態になってしまっていたことが極めて大きな問題だということに気付き、研究者であり経営者でもあると自己認識を修正できた(まだやりきれてはいない)ことが、私の場合は大きな成長につながりました。

いかに強みを殺さぬまま起業家としての自分を作り込む素地をつくりあげるか、ということが、極めて重要であると学びました。繰り返しますが、これは非常に厄介な問題なので、ここをどうクリアするかが成否を分けるような気がします。

3.ビジネス系のつながりが少ない

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3つ目は、上記よりはまだ対処しやすいと思いますが「ビジネス系のつながりが少ない」という点でも苦労しました(しています)。

研究者が起業をする場合、特に研究が絡む起業をする場合は、本来ならば「ビジネス側のプロであり研究にも理解を示せる人」が必要です。上記のように、研究者の世界とビジネスの世界では適切な戦い方が異なるため、1人で戦うのは無謀で、背中を預けられるバディがいると圧倒的に戦いやすくなります

しかし、それがなかなか見つからないのです。

研究者はビジネスの世界から隔離されて生息しているため、仕事でビジネスマンに会う機会は少なく、遠い存在です。知っている程度ならあっても、共に起業したいというほどの人を仕事つながりで見つけるのは困難です。

となると、学生のころのつながりや、課外活動でのつながりに頼ることになるのですが、そもそも研究者に理解を示せて自分ごととして本気になれるビジネスが強い人はほとんど存在しないので、なかなか見つかりません。

VC等支援機関で共同創業者候補を紹介してくれるところもあるので、試したことはありませんが、もしかするとよいのかもしれません。

お互いしっかりと対話し、違いを理解した上で受け入れて、対等な信頼関係を構築していけるかが鍵なのではないかと思います。

私はそういう人がいないか探しながらも、この人だ!という人はみつからないまま自らビジネス面もがんばるという選択をしていますが、まだまだ極めて未熟であるという自覚もあります。

自らの経験を元にした前提を一旦保留した上で対話し、研究側がビジネス側に、ビジネス側が研究側に歩み寄って、互いのことを学習し、理解した上で、強みを最大限発揮できるようにするのがあるべき形だと思います。

ということで、そんなバディを切実に求めているので、こいつ面白そうだなと思った方は是非連絡くださいw

終わりに

以上、いかがでしたでしょうか。
今回は「研究者から起業してみて、研究者からの起業は大変!と思ったこと」を書いてみました。私もまだ部分的に解決している状態でしかありませんが、解決しきれると最高に面白いことになるのではないかと思います。

引き続き研究者と起業家の狭間にいて見えてきたこと、感じていることなどを書いていきたいと思います。

次回は、今回改めて厄介だと感じた研究者OS vs 起業家OSの話を掘り下げてみようかと思います。

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