はじめに
まだ誰もが知る取り組みというわけではありませんが、文科省、経産省等、国のほうでも限られた予算で最大限の成果を上げていけるように、様々な研究設備共用の取り組みを行っています。
それらの取組は、多くの成果を上げており、良い点も多くあります。
一方で、常識レベルまで広げていくにはまだまだ課題が多く、広がりきらない現状があります。
今回は、そのようなこれまでの研究設備共用の良い点、課題として残っている点を紹介していきたいと思います。
基本的な特徴
研究設備共用の取組は、基本的にほぼ全て公的機関主導でビジネスではなく公共のサービスとして行われています。各大学、公共機関に設備共用のための資金が与えられ、それを元に運用している場合が多いです。
そのため、以下のような特徴があります。
良い点
ユーザー、提供側、運営側の観点から見ると、以下のような良い点があります。
利用者の立場
- 極めて特殊な設備もあり、バリエーションが豊富
- 専門家のサポートが得られる
- 安価に使える
- 共同研究に繋がることもある
- 分野を超えた研究も可能
- 通常、知財は要求されない
ユーザーとしては、各種の高価で特殊な装置を、その専門家のサポートのもと、安価に使える上で知財は要求されないため、非常に貴重なサービスです。共同研究や委託とは違い利用者主体で実験できるので、それらとの住み分けもできています。
提供側の立場
- 知見が得られ、共同研究に繋がることもある
- メンテナンス等のサポートを得られる
- 国およびユーザーから資金を得られる
提供側となる研究室やセンターは、公的資金やユーザーの利用料を得ることができ、そのお金を使って設備を一箇所に集約してメンテナンスを専任の方に任せられる等、運用上の利点がある場合もあります。また、サポートしたユーザーとの共同研究が発生する場合もあり、成果にもつながり得ます。
運営側の立場
- 設備利用により、新たな論文や事業が生まれている
- 大型の装置を買うのが難しい研究組織でも成果を上げられている
設備の利用により、別記事(URL)にもある通り多くの共同研究・論文が生まれていますし、資金の乏しい地方大学で数億円の装置を活用してnatureに論文が載るような成果を上げている事例もあります。
限られた研究予算で全体の成果を上げていくためには、有効な手段であると思われます。
課題
このように良い点が多々ある一方で、中々本格的には広がっていかない理由、課題も多々あります。こちらもそれぞれの立場から整理してみます。
利用者の立場
- 手続き(申請・審査・報告等)の手間が大きく、時間がかかる
- 品質保証は受けられない
- 各機関がバラバラに動いているため、使いたい機器・設備を探しにくい
安価に使えるのは良いのですが、公的資金が入っているため、審査や申請の手間がかかり、利用までに数週間かかる場合が通常です。公設試等では速く使える場合もありますが、実験以外の手間は極力少なくしたいものです。
また、委託分析などと異なり、品質保証はなく、あくまで保証できるのはプロセスまでとなる場合が多いです。公式のデータを出す場合には委託会社にお願いする方が良いでしょう。
更に、設備共用を促進するための公的資金は、各機関に振り分けられて利用されており、システムや情報はバラバラなので、使いたい設備を探すには手間がかかってしまいます。
提供側の立場
- 故障やコンタミのリスクがある
- 導入教育、手続き等に手間がかかる
- 得られる資金が多くない場合も
- 知財や情報漏洩が心配
提供側は課題が山積みです。リスクも手間もある一方で、得られる資金は少ない(場合によってはない)ため、分野やその時の状態にもよりますが、多くの場合、喜んで提供する、という状態ではありません。保険や実施の仕組みの工夫で極力コストを減らしつつ、提供側のメリットを最大限増やしていく工夫が今後必要です。
運営側の立場
- 継続性に乏しい
- 単価が安い&リスク高い&手間がかかり、提供側に優しくないため広がり辛い
- そもそも今の金額バランスだと公的資金抜きでは成り立たない
- 公金なしで回す方法を確立できていない
- 取組を全体に広げていけない
上に挙げたように、提供側のメリットデメリットのバランスが現状ではあまり良くなく、公的資金でなんとかバランスをとっている状態なので、仕組みを変えていかなければ、サステイナブルな仕組みにしていくことはできません。
利用者も提供側も運営側も、それぞれにとって嬉しい仕組みにしていくことが、今後この研究設備共用を広げていくための鍵ではないかと思います。
終わりに
以上、いかがでしたでしょうか。
このように、研究設備共用は良い点も多々ある一方で、この取組を維持し、広げていくためには課題も多いです。ここに挙げたような課題が解決されていき、研究設備の共用が当たり前になると、今よりも遥かに効率的でバリエーションに富んだ研究ができるようになるかもしれません。そんな未来を目指して、日々取り組んでいきたいと思っています。