意外と知らない?多様な形の「共同研究」の道しるべ「さくらツール」

はじめに

共同研究という言葉は、アカデミック界隈でよく聞くワードですよね。
またそうではない方でも、学生時代に何となく耳にしたことはあるかもしれません。
アカデミック同士、あるいは企業とアカデミックとが行う研究開発連携方法のうち、昔からあって現在でも最もメジャーなものではないでしょうか。

アカデミックと一緒に何かやれたらいいけど、共同研究ってどうにも窮屈……(特に知財回りが)
そう決めつけちゃう前に、ちょっと待ってください!
共同研究にも「種類」があるのを、ご存知でしたか?

種類の違いを知って、それらをうまく活用することが出来れば、権利関係を柔軟に調整することも可能なのです!

より目的にフィットし、かつ関係者全員が最も納得するかたちで、研究開発が進められる。
そう言う形に持っていけるなら、関わっている人たち全員気兼ねなく研究開発に集中できますし、スムーズに風通しよくプロジェクトを進められますよね。

でも共同研究を行うその都度、何から何まで一から全部条件を調整していくのは、とても面倒です。
例えば、大学によってそれぞれフォーマットも違うし、あちらこちらに散らばった各所の意見を聞いているだけで時間がかかり過ぎてしまう。
結局、共同研究契約そのものが避けられてしまう、という……そんな悲劇が数え切れず、人知れず積みあがっていくという、悲しい現実があります。

そんな要望にお応えする形(?)で、文部科学省では2017年から「さくらツール」という、共同研究のためのフォーマットを展開しているのです。「さくらツール」では、共同研究契約の種類ごとにテンプレートを作成・展開しています。

今回はそのさくらツールをピックアップし、紹介していきたいと思います。

さくらツールとは?

さくらツールとは2017年に文部科学省が策定した、共同研究等成果が適切に事業化に繋がる可能性を高めることを目的とした共同研究契約書のモデルです。

その考え方の元となったランバートツールキットは、英国知的財産庁(The IntellectualProperty Office)よって策定され、2005年から運用されている契約モデル集です。
(参考:https://www.gov.uk/guidance/university-and-business-collaboration-agreements-lambert-toolkit)
その前に、日本ではアメリカのバイ・ドール法を基本にした日本版バイ・ドール法(産業活力再生特別措置法第30条)が1999年に制定されて、都度変更も加えられてきましたが、変化著しい現在の産学官連携の事情には必ずしもフィットしきらなくなってきました。
そのためマイナーチェンジだけで対応するのではなく、いっそ違う考え方に基づいて、新しく共同研究契約書のモデルを作ってしまおう!という視点で、さくらツールは作られました。

その大きな特徴は、「共同研究契約書のテンプレートモデルを複数作って、その中から個別の共同研究に適したモデルをその都度選んでもらおう」というものです。
そうすれば契約を交わす当事者同士が知財に詳しくなくても、交渉のスキルに長けていなくても、お互いにとってよりよい形でかつスピーディーに進められますよね。
そして契約時に「成果をどう事業化して進めていくのか」というところまで見据えて契約を結ぶことで、お互いにとって希望した形通りに、その成果を利用することができます。
研究は確かに「想定した通りに進まないもの」であり、だからこそ、そこから新しいものが生み出されるものですが、事前準備でなくせる不幸なミスマッチは無くしていきたいですよね。「想定した通りに進まない」からこそ。

さくらツールの基本的な考え方は以下のとおりです。
(さくらツール概論より抜粋https://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/04/13/1383855_001.pdf)

  • 共同研究の成果については、可能な限り広い範囲で活用がなされるよう、知的財産の帰属及び活用の柔軟な取扱いを認めるべきである。
  • 知的財産の帰属は、研究に対する知的貢献あるいは経済的貢献の観点からバランスの取れたものであるべきである。
    1.企業は事業化・商業化を希望する知的財産については可能な限り権利を確保する機会が与えられる。
    2.一方で、大学が相当の知的貢献をした場合には、発生する知的財産は大学に帰属した上で、企業の活用条件を当事者間で柔軟に交渉できるようにすることが望ましい。
  • 知的財産がいずれの当事者に帰属したとしても以下の条件は満たされなければならない。
    1.大学は将来の研究の可能性を制限されない。
    2.すべての知的財産は、実用化に向けて適切な努力がなされる。
    3.研究の実質的な成果は、原則として合意された期間内に学術的な公表がなされる。
  • さくらツールで提供されるモデルの各類型は、あくまで交渉の出発点を提供するのであり、最終的な取り決めは個別事情に応じて柔軟になされるべきである。

その後、翌年2018年に改訂版が出されて、より様々なケースに対応できるようになりました。

どんな類型があるか

さくらツールには、大きく分けて2つの種類があります。
1つは通常型といってアカデミックと民間、それぞれが1 on 1で関わっているケースです。
もう1つはコンソーシアム型、こちらは関係者が3つ以上になるケースです。

さらにここから、どちら側がどの程度権利を持つのか、という形で細かく分類されます。

まずは通常型は以下の様に11種に分けることが出来ます。
(参考:https://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/sangaku/1383777.htm)

次にコンソーシアム型は以下のように5種に分けることが出来ます。
(参考:https://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/sangaku/1403194.htm)

個別にもっと細かく各モデルについて知りたいという方は、是非下記のサイトから確認してください。
通常型については
https://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/sangaku/1383777.htm
コンソーシアム型については
https://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/sangaku/1403194.htm

個人的には通常型よりも、コンソーシアム型の方がより柔軟性があると考えている点が、「研究テーマに関する事情」が第一の考慮要素に挙げられているところです。
一口に研究の寄与度合いと言っても、なかなか(当事者であっても)具体的に説明することは難しいものです。
それより、テーマベースで「そのテーマを将来的に当事者同士がどう利用していくのか」ということを第一に考える方が、シンプルでかつ現実的です。

おわりに

今回は文科省のお墨付きで共同研究契約を結ぶ際の道しるべとなる、そんな「さくらツール」についてご紹介させていただきました。

さくらツールは、個人的にも民間と大学、双方の手間とリスクが軽減されて産学連携の機会が増える、非常に良いツールなのではないかと思っています。是非色々と有効に活用していければな、とも考えています。

一度「共同研究」という言葉の響きに臆せず、むしろ逆に積極的に使いこなしてみよう!、そんな姿勢で「共同研究」契約の利用を検討してみるのはいかがでしょうか?
そこから、また新たな産学連携のビジョンが見えてくるかもしれません。

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