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導入事例

技術はあるのに、なぜPoCは進まないのか 〜創業1年半で複数の実証を走らせるスタートアップに聞く、相手の見つけ方と進め方〜

優れた素材技術を持っていても、それが社会で使われるまでには遠い距離があります。「問い合わせは来るが、話が進むものはごくわずか」「技術は語れるが、使う側の言葉に翻訳できない」——そうした壁に突き当たる研究者や技術者は少なくありません。素材技術と産業ニーズをつなぐプラットフォーム「Material Catapult」の正式リリースを記念したイベントで、株式会社Co-LABO MAKER代表取締役の古谷優貴と、ナノ粒子技術で材料開発を手がけるナノフロンティアの井上様が、実証実験(PoC)の獲得と推進について語りました。

この記事はイベント「Material Catapult ローンチ記念イベント」の模様をレポートいたします。

研究開発を加速するだけでは、事業にならない

はじめに登壇したのは、Co-LABO MAKER代表取締役の古谷優貴。東北大学客員准教授でもあり、自身も研究者として学生時代に2年間で8本の論文を執筆した経歴を持ちます。

同社は9年前に創業し、仙台と東京に拠点を構える東北大学発ベンチャーです。大学やメーカーが保有する設備の空き時間と、実験環境を必要とする企業をつなぐ「ラボシェアリング」を主軸に、これまで5,000件以上の相談に対応し、900件以上の成約を重ねてきました。文部科学省の認定サービスにもなっています。

その古谷が、今回のサービスを立ち上げた理由として挙げたのが「車輪がもう一つ足りなかった」という認識でした。

「私たちはこれまで、実験ができるということにコミットしてきました。早く、安く実験できる状態は作れたのですが、それでも事業にならないというところが多くあった。優れた技術と出会うけれど、それがなかなか社会に実装されていかない、という課題を強く感じていました」と古谷は語ります。

要因のひとつが、出会いの量と質です。展示会などの機会はあるものの、費用がかかるうえ頻度も限られ、成果が出るまでに1年から3年を要することも珍しくありません。問い合わせ自体は届くものの、実際に話が進むものはごく一部で、その選別に現場の時間が奪われていきます。

もうひとつが「翻訳」の問題です。古谷はこう指摘しました。「技術者は、技術という点ではすごく強いし、誰よりも語れる。けれど、その技術が使われる応用用途——たとえばこの素材は洋服に使えますよ、というときに、洋服の知見を持っている人に合わせた言葉で話せるか。相手が魅力的だと感じる話し方ができるかというと、そうではない。結果的に伝わらず、うまく進まないということが起きています」。

研究開発を支える車輪と、事業開発を進める車輪。その両方が必要だという判断から、ニーズ検証・用途開発・事業化を支える仕組みとして立ち上げたのが Material Catapult です。

PDFを渡すだけで、技術紹介ページとAIチャットが生成される

続いて古谷は、実際のサービス画面を示しながらデモンストレーションを行いました。

技術を持つ側が行うのは、手元にある紹介資料のPDFをアップロードすることだけです。そこから技術紹介ページが自動生成され、概要、評価項目、開発者の思い、注意事項といった項目が整理されます。同時に、その資料をもとにしたAIチャットも用意されます。

デモでは、植物由来の抗菌素材のページで「どんな認証を取得していますか」と質問すると、数秒で該当する規格試験の情報が返されました。さらに「赤ちゃんにはどう使うイメージですか」と尋ねると、想定される用途、安全性、加工方法、期待できる効果とその持続性、注意点が、その用途に合わせて生成されました。植物性のポリフェノールを使用しており金属を含まないこと、繊維加工が可能で衣類にも使えることなど、質問者の関心に沿った形で提示されます。

「来た方は、欲しい角度から情報を切り取って持っていける。逆に技術を登録する担当者側からすると、ある程度聞いた後の人たちが来ることになるので、最初の前さばきの手間が大きく省けます」と古谷は説明しました。

東京都の「TOKYO SUTEAM」事業に採択された協定事業として運営されており、スタートアップおよび大学の技術シーズについては、協定期間中は掲載からマッチングまで費用がかかりません。

ナノ粒子で材料開発を爆速に——ナノフロンティアの取り組み

 ゲストとして登壇したのは、ナノフロンティアの井上様。東京大学農学部から同大学院修士課程を修了後、新卒でマイクロソフトに入社し、その後カタリストパートナーズグループを経て起業しました。共同創業者でCTOを務めるのは、東北大学准教授としてエネルギー材料をはじめ幅広い材料研究に携わる岡浩樹氏です。

「僕がソフトウェアの知見を持っていて、彼が科学の知見を持っている。うまくそこを組み合わせながらやっているのが弊社の特徴です」と井上様は紹介しました。

同社が保有するのは、水に溶けない物質を目に見えないほど細かいナノサイズにして液体中に分散させる技術です。もともとは水に溶けない薬を溶けているように振る舞わせる研究室の技術でしたが、対象を薬以外に広げ、ビーカーで少量ずつ作る方式から量産可能なアーキテクチャへと作り替えました。

応用先は複数に及びます。注力しているのがPFASの検出試薬品です。PFASは各国で規制が強化されている汚染物質ですが、検出にはLC-MS/MSという大型装置が必要で、費用も時間も技術者も要します。同社は、疑いのある液体に滴下すると濃度に応じて色が変わる簡易検査試薬を開発しており、現場での迅速な判定を目指しています。

このほか、データセンターや自動車向けの冷却液にナノ粒子を加えて性能を向上させる取り組み、レアメタルを使わず有機物を用いた蓄電池材料の開発も進行中です。さらに同社は、社内でAIやシミュレーション、ロボットアームを活用した研究開発の効率化にも取り組んでおり、その知見を各企業の研究現場へ提供する支援も行っています。

PoCの相手は「人の紹介」から生まれている

 古谷が関心を寄せたのは、創業から1年半に満たない同社が、どのようにこれだけのPoC相手を見つけているのかという点でした。

井上様の答えは率直なものでした。プレスリリース後は問い合わせが増える傾向にあり、特にPFASや冷却液については具体的な相談が届くといいます。一方で、それ以外の経路は地道なものでした。展示会に足を運ぶ、出資関係のないベンチャーキャピタルと面談したところその出資者が関心を持つ、といった積み重ねです。

なかでも銀行経由の紹介が多いと井上様は指摘します。メガバンクには、口座を持つ大企業の新規事業を支援する部署があり、そこに博士課程出身の行員が在籍しているケースもあるとのこと。「大企業側の支援をしている方が、担当する企業に会うたびに僕らを紹介してくれています」と語りました。

象徴的だったのが海外での事例です。日本の銀行が買収したタイの地方銀行を経由して現地企業を紹介され、先方から「こういうものは作れないか」と相談を受けたといいます。調べたところ性能向上の事例があったため、資料にまとめ、タイ語に翻訳して提案。実証実験の話へと進みました。

井上様はこの日、対談の最中に自社の記録を検索し、顧客との接点がどのチャネルから生まれているかを確認していました。結果は「人の紹介による、再現性の低いものが非常に多い」というものでした。

古谷は「結局のところ、特定のチャネルが万能というよりも、いろいろな行動量の総合が効いてくるということですね」と応じています。

最大の壁は「やりたいけれど、予算がない」

 出会えた先で何が起きるのか。歩留まりについて尋ねられた井上様は、最も多い障壁として予算を挙げました。

「やりたいけれど予算がない、というのが最も多いと思っています」。来年度の予算を待ってほしいという企業もあれば、今年度に余った予算で進めようという企業もある。さらに、新規事業部門が持つ予算と研究開発部門が持つ予算では性質がまったく異なると指摘します。

「どこの予算を引っ張れるのかというのを、企業対企業というよりは、担当者レベルの人と人として話すことが多いですね」と井上様。東南アジアの企業の場合は、企業自体が大きな予算を持たないことも多いため、日本政府の資金を共同で獲得する方向で連携することもあるといいます。

苦労について問われると、井上様は「苦労だらけです」と答えたうえで、個人としては多忙であることを挙げました。これに対し古谷は「だからこそ、ある程度の前さばきを自動で行う仕組みがあって、残ったエッセンスの部分だけ話せる状態から始められれば、助かるのではないかと考えています」と、今回のサービスの狙いを重ねました。

PoC設計では「研究になりすぎない」ことが重要

 もうひとつの難所として井上様が挙げたのが、PoCの内容そのものを設計することでした。

製品化に至るまでには複数の懸念点があり、それらを最初にすべて洗い出して一度の検証でクリアすることはできません。進めるうちに新たな確認事項が生じるため、予算と相手方のスケジュールに合わせて範囲を区切り、そこで出た課題を次の検証へ回していく必要があります。次の検証には次の予算が必要になるため、どこから資金を引くかを含めて丁寧に合意を取る、という進め方です。

「研究で深掘ろうと思えば、いくらでも深掘れてしまいます。あくまでも研究になりすぎないことが大切です」と井上様は語りました。

目標値の設定についても言及がありました。性能向上を目指す場合でも、10%の改善を良しとするのか、25%を求めるのかによって、必要な検証も残る課題も変わります。目標値がなければ何をもって達成とするかが定まらないとして、井上様はこれを「期待値のコントロール」と表現しました。

古谷も「そこがかみ合う形でないと、何かは進んでいるけれど事業は進まない、ということが起きますよね」と応じています。

量産と事業化は、定義を切り分けて考える

話題は、その先の量産と事業化に及びました。井上様はまず、両者の定義を切り分ける必要があると述べます。

事業化については、予算の出どころが変わるタイミングが節目になるとの見方を示しました。冷却液の例では、現在は研究開発部門や新規事業部門の予算で技術検証を行っていますが、実際に採用が決まれば、より事業に近い部門の予算に切り替わります。「その予算の切り替わったタイミングが、事業化したタイミングになる」と説明しました。ただし、そこに至るには相手企業のさらに先の顧客も見据える必要があり、年単位の時間がかかるとしています。

量産についても、製品によってスケール感がまったく異なると指摘しました。PFASの検出試薬は1滴で価値が出るため、大量に製造する必要がありません。「量産するための装置や技術的なネックというよりは、その量を本当に売れるのかというニーズのほうが重要です」と述べています。

スタートアップだけでは、世の中は変わらない

締めくくりに今後の抱負を求められた井上様は、聞き手の立場ごとに言葉を分けました。スタートアップに対しては「しつこいくらい営業すること」。大学に対しては「どういった予算が出せるのかを意識しながら研究すること」。

そのうえで、次のように語りました。

「スタートアップだけの力では、本当に世の中を変えていくことはできません。1,000億円規模の会社があったとしても、それだけで世の中が良くなるわけではない。だからこそ、より大きな会社に協力していただくことが非常に重要だと考えています。熱量が高く、同じ目線に立って話せる企業の方々とご一緒して、世の中にインパクトを残していけたらありがたいと思っています」

古谷も「私たちもこれまで、研究のシェアリングを通じて研究を加速することに集中してきました。ここからは技術を社会実装するところまで含めて、プラットフォームを提供し、パートナーとして伴走していきたい」と述べ、会を締めくくりました。

Material Catapult は今後も機能の拡充を予定しており、オンラインだけでなくリアルイベントの開催も計画されています。

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